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大阪地方裁判所 昭和55年(ワ)6480号 判決

原告 三幸物産株式会社

右代表者代表取締役 加山恵洋

右訴訟代理人弁護士 木ノ宮圭造

同 滝井繁男

同 仲田隆明

被告 信用組合大阪興銀

右代表者代表理事 李健

右訴訟代理人弁護士 曽我乙彦

同 有田義政

同 金坂喜好

同 影田清晴

主文

一、被告は、訴外丸三鉄鋼株式会社に対し、別紙目録一記載の出資持分につき、訴外金山炳五郎こと金炳五に対し、同目録二記載の出資持分につき、それぞれこれを譲渡することの承諾をせよ。

二、原告のその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用は、これを五分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1.被告は、原告に対し、別紙目録記載の出資持分を、大阪府内に住所または居所を有する韓国人に対し譲渡することの承諾をせよ。

2.訴訟費用は、被告の負担とする。

二、請求の趣旨に対する答弁

1.原告の請求を棄却する。

2.訴訟費用は、原告の負担とする。

第二、当事者の主張

一、請求原因

1.原告は、訴外丸三鉄鋼株式会社(以下「訴外会社」という。)および訴外金山炳五郎こと金炳五(以下「訴外金」という。)に対し、大阪地方裁判所昭和五五年(手ワ)第九六六号約束手形金請求事件による手形判決の執行力ある正本にもとづき、金額三七九三万一二三八円、満期昭和五五年四月二二日支払地大阪市、支払場所信用組合大阪興銀本店営業部、振出地東大阪市、振出日同年一月一四日、振出人訴外会社、受取人兼第一裏書人訴外金なる約束手形の手形金三七九三万一二三八円およびこれに対する昭和五五年四月二二日から支払ずみまで年六分の割合による利息の支払を請求する債権を有する。

2.訴外両名は、被告に対し、別紙目録記載の出資持分(以下「本件持分」という。)を有する。

3.原告は、右手形債権の執行のため、債務者を訴外両名、第三債務者を被告とする昭和五五年八月六日付差押命令にもとづき、本件持分の差押をなした。

4.訴外両名の財産は、すでに多額の債務に対する担保に供されており、他に債権の引当となるこれといった資産はない。

5.原告は、訴外両名に対し、右1記載の手形債権を含めて、現に所持している別表記載の約束手形にもとづく手形金債権の合計一億四一六二万三〇八三円(ただし、昭和五五年八月一八日二五〇〇万円を強制執行の配当金として受領した。)を有するから、右手形金債権を保全するため、右訴外両名が被告に対して有する出資持分譲渡承諾請求権を代位行使して、被告に対し請求の趣旨記載のとおり右譲渡の承諾を求める。

二、被告の認否および主張

1.請求原因1および4は、知らない。同2および3は、認める。同5のうち原告が債権を有することは知らない。

2.被告は、本件持分の譲渡につき承諾義務を負わず、承諾するかどうかは被告の自由裁量である。このことは、中小企業等協同組合法(以下「法」という。)一七条一項の文言上明らかであるばかりでなく、国税徴収法七四条では、税務署長は信用組合につき滞納者の持分を差押えたとき、当該持分について「法律又は定款に制限があるため譲渡することができないとき」に組合員の脱退の意思表示を要せずして持分の一部の払戻し請求ができる旨定め、法一七条一項等の規定を法律の定める譲渡制限であることを前提としていることからしても明らかである。

3.仮に、被告が本件持分の譲渡につき承諾義務を負う場合があるとしても、法二三条および被告の定款一九条にいう「やむを得ない事由」があるときに限られる。けだし、出資持分の譲渡は出資口数の減少を伴うものだからである。

本件では、次の事情から「やむを得ない事由」があるとは認められず、裁量権の濫用にも当たらない。被告は、訴外会社および訴外金に対し約四億円の手形貸付債権および連帯保証債権を有し、本件持分は右各債権の担保的性質を有している。右貸付など取引が継続している以上、取引と切り離して第三者への出資持分の譲渡を認めたのでは、出資の担保的性質を失わしめることになる。

三、被告の主張に対する原告の反論

1.(一)国税徴収法七四条一項一号は「その持分を再度換価に付してもなお買受人がないこと」を条件としてはじめて税務署長に持分の払戻を請求できるものであり、差押えた出資持分については滞納処分手続に従って公売すなわち譲渡させるのを原則としている。また、同項二号は、出資持分の法律上、定款上の譲渡不能の場合に関するもので、本件の場合のごとく被告の承諾さえあれば譲渡できる場合にそのまま適用されるものではない。

(二)出資持分の譲渡は、組合財産の減少を伴わないから、法二三条および被告告の定款一九条は適用されない。

2.被告は、本件持分の譲渡につき正当な理由なく譲渡の承諾を拒否できない。被告が右承諾を拒否できるのは、組合員資格のない者に譲渡しようとする場合等客観的に明らかな障害事由がある場合に限られる。けだし、被告に対する加入は自由であって、申込者に組合員資格がある限り組合は正当の理由なく申込を拒否できず(法一四条)、組合員は予告さえすれば自由に脱退でき(法一八条)、本件持分も株式と同様実質的には権利者が自由に処分しうる財産権であるからである。

本件では次の事情から本件持分譲渡につき承諾を拒否しうる正当な理由はない。すなわち、原告は、組合員資格を有する者に対する譲渡の承諾を求めているのである。もし、訴外両名の組合員資格を維持する必要があるのであれば、被告は、各出資一口を除いて譲渡の承諾をすれば足りる。また、本件では被告の定款一七条により訴外両名を除名し、出資払戻債務と貸付債権とを相殺することもできるのである。

3.本件承諾請求に対する被告の拒否は、次の事情から権利の濫用として許されない。すなわち、訴外金は、被告の有力な理事であるため、被告は同訴外人を擁護し、原告の同訴外人に対する裁判上確定した債権の強制執行手続による実現を故なく妨げようとしている。

第三、証拠〈省略〉

理由

一、〈証拠〉によると、請求原因5のうち原告が同主張の債権を有することが認められる。

二、原告は、本件出資持分を大阪府内に住所または居所を有する韓国人に対し譲渡することの承諾を求めるので、案ずるに、信用組合である被告について適用される法(中小企業等協同組合法)一七条一項は「組合員は、組合の承諾を得なければ、その持分を譲り渡すことはできない。」と規定し、同条二項は「組合員でないものが持分を譲り受けようとするときは、加入の例によらなければならない」と規定し、かつ法一五条は加入の際には組合の承諾を必要とする等を定めている。これらの規定からすると、組合員甲から非組合員乙に甲の持分を譲渡するに際しては組合から法一七条一項の承諾と法一五条の承諾がされることが必要であるが、この両種の承諾を各々別個にすべきことを求める理由はなく、特定人甲から特定人乙への持分譲渡にあっては、これに対し一個の承諾がされるだけで足りると解するのが相当で、甲は単独で組合に対してこのような意味における承諾を求めることができると解すべきである。

そして、〈証拠〉によると、韓国人にして被告組合の地区内に住所または居所を有する者は被告の組合員になる資格を有するものとされていることが認められ、弁論の全趣旨に照らすと、原告の訴求の趣旨は、譲渡および加入についての承諾を含めた意味において、訴外両名から大阪府内に住所または居所を有する韓国人に対する譲渡の承諾を求めているものと認められるが、法一四条において加入自由の原則がうたわれているとはいっても、組合の人的結合組織としての性質からすると、組合としては特定の加入申込者について審査をし、個別的かつ具体的に法一五条の承諾を与えるか否かの判断をする必要があると考えられるから、少なくともこのような判断をする権能を保留しているものと解すべきである。しかしながら、原告が譲受人として申立てているのは、右のとおり、「大阪府内に住所または居所を有する韓国人」というのであるから、結局のところその譲受人は特定された対象であるとはいいがたく、これについて被告が譲受人が特定される以前に承諾を強いられるにおいては、被告が保有している前記個別的具体的審査権能が侵害されたことになるのである。

したがって、訴外両名、ひいてはこれに代位している原告が被告に対し右のような形式における承諾を求めることはできないというべきである。

三、弁論の全趣旨によると、原告は、法一七条一項だけの承諾をも訴求するものと認められるので、この点について判断する。

組合員が組合に対してした右の承諾請求に対し、組合が承諾義務を負うかについて、被告は承諾義務を負うものではないと主張する。法一七条一項等の規定は組合の人的結合組織としての特質に鑑み持分の自由譲渡を認めないこととしたものと解されるが、他方、法一八条、二〇条は、組合員は九〇日前までに予告し、事業年度の終において脱退することができる(ただし、前記乙第五号証によると、被告にあっては、定款の定めにより右の九〇日が六か月に伸長されていることが認められる。)とし、その場合にされるべき払戻について規定しているのであって、これらの規定からすれば、組合員は、一定の手続を必要とはするものの、事業年度の終りにおける脱退の自由を有しているのであり、またその場合の払戻請求権を有しているのであるから、持分譲渡の財産的側面は結局右の払戻請求権を譲渡することに帰着するが、これは本来は自由に処分されて差支えないものということができる。そして、持分譲渡が実現したとしても、譲受人が新たに組合員になるのであるから、組合財産の減少をきたすことがないばかりでなく、事業年度の途中において組合員に交替を生じたことが組合の事業に著しい支障をきたすものともいいがたい。このように、事業年度の終りにあっては組合は組合員の脱退を拒みえないのであるし、事業年度途中の譲渡があっても格別支障があるといえない以上、事業年度途中の譲渡であるとして組合が専らその裁量によりその譲渡につき承認を与えるか否かの自由を有すると解すべき根拠はないものというべきである。したがって、組合は組合員から承諾を求められたときは原則としてこれを与えるべく、ただ正当の理由がある場合に限りこれを拒否することができると解するのが相当である。

なお、被告は、承諾を与えるか否かは組合の自由裁量であるとする根拠の一として国税徴収法七四条の規定を挙げる。たしかに同条一項二号の「その持分の譲渡につき法律又は定款に制限があるため、譲渡することができないこと」との規定にいう「法律」には譲渡につき組合の承諾を必要とするという法一七条一項が含まれると解される。すなわち、法一七条一項は前記国税徴収法の規定上持分の譲渡を制限する法律にあたるが、それは持分を譲渡するには組合の承諾が必要とされるためにすぎず、右の承諾に関し組合は正当の理由のないかぎり拒否することができないとの叙上の解釈をとったとしても、法一七条一項が右にいう持分譲渡を制限する法律であることに変りはないから、国税徴収法の右規定が承諾を与えるか否かは自由裁量であると解する根拠になるものではない。

また、被告は、被告が承諾義務を負う場合があるとしても法二三条、定款一九条にいう「やむをえない事由」があるときに限られるとも主張するが、前記のとおり持分の譲渡は組合財産の減少をきたすものではないから、右の主張も採用できない。

四、本件につき承諾拒否について正当の理由があるかについてみるに、被告は出資持分が組合の債権担保的性質を有しており、貸付などの取引と切り離して第三者へ持分の譲渡を認めることはできないと主張する。しかしながら、被告が持分に関してなんらの担保権を有していると認めるに足りる証拠はなく、当事者間に争いのない請求原因2の事実、〈証拠〉によると、被告にあっては、通常、組合員の出資額は預金額を控除した残債権額の三パーセント位を占めるものにすぎないこと、訴外両名は、被告に対し約三億六〇〇〇万円の連帯支払債務を負っているが、これに対し、訴外両名の出資額は額面で合計一〇一〇万二〇〇〇円であるにすぎないことが認められる。また、〈証拠〉によると、被告は訴外金所有の不動産につき相当額の抵当権を有することが認められるところ、前認定の債権額から推すと、被告の債権の担保のうち重要なものは右の抵当権であると認められるうえ、〈証拠〉によると、被告としては、債務を履行しない訴外両名を被告の定款一七条により除名し、手形貸付債権および連帯保証債権と出資払戻債務とを対当額で相殺することによってその債権を回収する方途を残していることが認められる。

思うに、持分に由来する払戻請求権が事実上被告の債権担保の役割を果していることは肯認されるが、被告はこれにつき第三者に対抗しうる優先的地位を有していないのであるから、右は他の債権者に対してもいずれはそれぞれの債権を満足させるため平等に提供されるべき性質を失っていないものと観察せざるをえない。前認定のとおり、訴外両名には現在では右の持分を除いてはこれといった資産がないのであるから、右の持分はいまや強制執行の対象として残された最後の財産であるというべく、したがってまた、そのために必要な手続、すなわち譲渡承諾等の手続がとられることが望まれる。前認定の事実によると、訴外両名の信用状態は極めて悪いものといわざるをえず、原告が訴外両名に対して有する債権だけでも一億円を下らず、これは昭和五五年一月から四月にかけて履行されるべきものが遅滞されているのであり、被告もまた訴外両名に三億六〇〇〇万円の債権を有しているのである。被告がその有する右の債権に対してどの程度回収可能と見込まれる抵当権その他の担保を有しているのか分明ではないが、被告が債権回収のための手続を踏んでいることをうかがう証拠がないし、本件出資金に関しては除名、相殺という有効な対抗手段を有しているが、証人山下昌憲の証言によると、被告はそのための手続をしていないことが認められる。もとより除名という手段は種々の考慮のうえ最後にとられるべきものであり、被告がそのための手続に踏み切らないでいることを第三者の立場から軽々に批判することのできる性質のものではないが、事がここに至っている以上、被告が合理的な理由もなしにこれらの対抗手段を行使する等の回収手続をとらないでおいて、一般債権者の債権を満足させるための手続の過程上最小限度必要とされる持分譲渡の承諾を拒み、自らの債権を事実上確保しようとする方法が公正なものということはできない(なお、証人山下昌憲の証言、弁論の全趣旨によると、訴外金((訴外会社の代表者でもある。))は被告の創立者の一人でもある、被告の有力な理事であることが認められるところ、被告が訴外両名の叙上のような信用状態にかかわらず必ずしも確固とした回収手続に出ることをせず、債権者代位によって求められている承諾をも拒んでいるのは、訴外両名と会社との右のような関係に由来しているとみることを全く不合理なものということはできない。すなわち、被告が訴外両名に対し債権を有することが本件承諾拒否の真の理由であるかについては、疑問がないわけではない。)。それゆえ、被告主張の事由が承諾拒否の正当理由にあたるということはできない。そして、他に持分譲渡に関しその全部または一部について承諾を拒む正当の理由があることについての主張、立証はない。

五、このような承諾請求が債権者代位権の対象となるかについてみるに、承諾は結局持分権に譲渡性を与え、それにつき強制執行をすることにより一般債権者の債権を満足させるものであるという意味において、承諾がされることは債権の保全につながるものである。持分の処分そのものは強制執行にもとづいてされるべきものであるが、その前提として承諾を請求することは、別段持分を処分することではないから強制執行にもとづいてされる必要はなく、またその性質上債務者の意思にもとづかなければならないものでもない。それゆえ、承諾請求は代位権の対象となると解すべきである。

そうすると、訴外両名に代位してされた原告の請求は、法一七条一項の承諾を求める限度で理由があるから、主文第一項のとおりこれを認容すべく(なお、原告は、代位者である原告に対する承諾請求を求めているが、承諾がされるべき相手は原告によって代位されている、組合員である訴外両名であると解すべく、弁論の全趣旨によると、原告の請求の本旨がこれと異なるものでないことが明らかである。)、その余を棄却すべきである。

よって、民訴法九二条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判官 川口冨男)

〈以下省略〉

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